• 2024年1月19日

低血糖①:低血糖症とは

 私たちの体(臓器)は、さまざまな栄養素・エネルギーを体内で産生したり、食事から取り入れて活動しています。特に脳は、意識、呼吸や循環などの生命維持に関与するだけでなく、全身臓器の働きを調整する重要な臓器です。脳の重量は 体重のわずか 2%程度(1.4kg)ですが、総基礎代謝量(安静空腹時)の約20%も消費しています(図1A)。脳はエネルギー源をグルコースのみに依存しており、体内グルコースの55%を消費(安静空腹時)する最大の臓器です(図1B)。
 脳が正常に活動を維持するためには、1日に120gのグルコースが必要であるといわれています。血液を循環するグルコースは 20g程度しかなく、常に肝臓や腎臓から供給されることで血糖値は 70-80mg/dlを下回らないように維持されています(図1B)。肝臓や腎臓からのグルコース供給低下 や 脳以外のグルコースの消費量増加が起こると、血糖値の低下により 脳へのグルコース供給量が少なくなり「警告症状=低血糖症」を引き起こします

・ステップ1:血糖が80mg/dl付近まで低下すると膵臓からのインスリン分泌が抑制され、末梢臓器(主に骨格筋や脂肪組織)での糖取り込みを抑制することで血糖値の低下にブレーキをかけます。
・ステップ2:血糖が70mg/dl未満に低下すると各種のインスリン拮抗ホルモンが分泌され、体内での糖産生を促進して血糖値を上昇させようと反応します。グルカゴンやエピネフリンは、肝臓でのグリコーゲン(糖質)の分解を促進して、速やか(15分以内)に血糖値を増加させます。一方で、成長ホルモンやコルチゾールは、肝臓や腎臓での糖新生(アミノ酸や脂質からグルコースを産生)を促進して、緩徐(数時間後)に血糖値を増加させます。
・ステップ3:血糖が60mg/dl未満に低下すると自律神経症状(警告症状)が出現します。自律神経症状が現れることで体の異変に気づけ、 糖質摂取の行動を誘導します。

 上記の 3ステップの生体防御機構が働いた状況下でも 血糖値が 50mg/dl未満に低下すると、 グルコース欠乏による中枢神経機能低下に起因する中枢神経症状が現れ、低血糖性昏睡に至った場合には 血糖改善後も脳後遺症が残ったり、最悪の場合には脳死に至ることもあります。

低血糖症であることを証明するためには、3つのポイントを満たす必要があります(Whippleの3徴)。

 1.低血糖に特徴的な臨床症状(自律神経症状、中枢神経症状)がある

 2.臨床症状が出現した際の血糖値が 60mg/dl未満である

 3.ブドウ糖投与(血糖上昇)により臨床症状が消失する

低血糖による臨床症状は、低血糖以外の原因でも起こりえる神経症状です。そのため、実際の血糖値が低いこと、血糖値を上げることで臨床症状が速やかに消失することで 低血糖が原因であったことを証明します。血糖上昇後も臨床症状が改善しない場合は、低血糖以外の原因を探索する必要があります。

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