• 2024年2月8日
  • 2024年2月9日

低血糖②:糖尿病患者さんの低血糖の特徴とは

 血糖低下に対して、生体は3ステップで防衛することを(低血糖①:低血糖とは)の項で解説をしました(図1A)。この3ステップの中で最も重要な防衛システムは、第1ステップ(インスリン分泌の抑制)です。第2ステップ(インスリン拮抗ホルモン分泌による肝臓の糖産生増加)、第3ステップ(低血糖自覚症状の出現による補食行動)により血糖を上昇させようとしても、糖尿病治療薬によりインスリン分泌が抑制されなければ低血糖が遷延する危険性があります。インスリンは、筋肉などへの糖取り込みを増やし、第2ステップの糖産生作用を減弱させることで血糖が下がり続けるため、補食による糖質摂取が唯一の血糖上昇の手段となります(図1B)。インスリン作用が減弱・消失するまで低血糖が遷延する危険性があります。


 糖尿病薬の全てが低血糖を引き起こすわけではありません。図2Aは、それぞれの糖尿病治療薬のよる低血糖リスクを表した図になります。糖尿病治療薬の中で、インスリン製剤(低血糖リスク:6.5~17.6倍)、SU薬(3.1~12.8倍)、グリニド薬(3.0倍)の3製剤が適切に使用されなかった場合に低血糖リスクを増やす可能性があります。日本糖尿病学会から発表された「2型糖尿病の薬物療法のアルゴリズム第2版」においても、SU薬とグリニド薬は低血糖リスクに注意して使用する薬剤であることが記載されています。

 経口糖尿病薬の中でSU薬とグリニド薬だけが、何故 低血糖リスクを有するのでしょうか。図2Cは、膵臓β細胞がインスリンを分泌する機序を示した図になります。まずは生理的な膵β細胞のインスリン分泌についてお話しします。血糖値(血中ブドウ糖)が上昇すると、GLUT2を介して濃度依存性に細胞内に取り込まれたブドウ糖がATPに代謝され、ATP依存性カリウムチャネル(KATPチャネル)が閉鎖することでインスリン分泌が促されます。ブドウ糖から代謝されたATP依存性にインスリンが分泌されるため、血糖が低下した状況ではインスリン分泌も抑制されます。一方、SU薬やグリニド薬は、SU受容体に結合することでKATPチャネルを直接閉鎖してインスリン分泌を促します。そのため、血糖が低下してもインスリン分泌が抑制されず、低血糖が遷延します。

 低血糖の持続時間は、それぞれの糖尿病治療薬の作用時間に依存します。どの薬剤を使用しているかを確認することで、低血糖時に経過観察すべき時間が予測できます(注意:腎不全の患者さんではインスリン排泄が低下(図1B)するため、長時間にわたって血液中にインスリンが残存します)。

 インスリン製剤やSU薬などの糖尿病治療薬の種類以外にも低血糖に注意すべきリスク因子があります。代表的なリスク因子について解説していきます。

1.慢性腎臓病(eGFR<60未満)腎臓からのインスリン排泄が低下する結果、相対的なインスリン過剰となり低血糖を来しやすくなります(図3A)。特に筋肉量の少ない高齢者では、血液データ以上に腎機能低下を来している可能性があり注意が必要となります。

2.糖尿病合併症(特に糖尿病性自律神経障害)を有する長期罹病期間:低血糖症状を自覚しづらく重症低血糖を来す危険性があります(図3B)。

3.高齢者・認知機能低下:加齢に伴って自律神経症状と中枢神経症状が出現する血糖閾値の差が小さくなり、自覚症状なしに中枢神経症状を来す危険性が高くなります(図3D)。投与する糖尿病薬によっては、厳格な血糖管理を目指すことでかえって低血糖頻度を増加させる危険性も報告されています(図3C)。

4.無自覚性低血糖頻回低血糖や重症低血糖は、脳視床下部のグルコース感知レベルを低下させ、低血糖に対する自律神経反応の低下・消失から自覚症状なしに中枢神経症状を来す危険性が高くなります。また、インスリン拮抗ホルモンの分泌低下を引き起こして十分な糖産生ができなくなります(図4A)。特に、インスリン治療を必須とする1型糖尿病患者さんでは低血糖頻度が高く、非糖尿病の対象者に比べて インスリン拮抗ホルモン分泌や低血糖症状出現の血糖閾値がともに低く、重症低血糖リスクが高いことを理解いただけるかと思います。

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