- 2024年2月12日
低血糖③:低血糖になった時の対処法
低血糖時にはブドウ糖を速やかに摂取することが大切です
低血糖時に血糖を上昇させる方法として、①糖質の経口摂取、②体内(主に肝臓)からの糖産生の促進があります。ブドウ糖を経口摂取した場合は数分で血糖上昇を認めます。一方で肝臓からの糖産生では、グリコーゲン(多糖質)を分解する場合は 5-15分後、糖質以外のアミノ酸や脂肪から糖合成する場合は 2-3時間後から血糖上昇を認めます。つまり、速やかに血糖を上昇させるには、ブドウ糖の経口摂取が最速です。
ブドウ糖は 10g(砂糖では 20g)を摂取します。一般的に ブドウ糖 1gで 血糖は 約5mg/dL 上昇すると言われており、10gの摂取で 約50mg/dLの血糖上昇が期待されます(体格や低血糖が起きた状況で多少は異なります)。経口糖尿病薬の α-グルコシダーゼ阻害薬を内服している場合には、砂糖などの二糖類の吸収遅延から血糖上昇が得られにくいため、必ずブドウ糖で対応いただく必要があります。
経口摂取が困難な重症低血糖の状況(意識レベル低下など)には、家族や第三者によるグルカゴン点鼻薬を用いた緊急処置を行います。肝臓に蓄えているグリコーゲンを分解することで、5-15分の比較的短時間で血糖上昇が期待できます。しかし、グリコーゲンの蓄えがない飢餓状態(絶食12-24時間で枯渇)、頻発する低血糖によるグリコーゲン消費の増加、蓄えたグリコーゲンを利用できない一部の糖原病、グリコーゲンを合成できない肝硬変など、グルカゴンによる血糖上昇効果が期待できない背景疾患・病態があることに注意が必要です。
図1.A)低血糖時の血糖上昇システム(反応時間) B)空腹時の体内の糖質供給システム
具体的な低血糖症状が出現した際の行動とは(図2)
Step1.低血糖症状が出現した際には、まずは血糖値を測定して低血糖があるかを確認します。血糖が低い場合には、低血糖症の可能性を疑います。一方、低血糖を認めない場合(注1)には、低血糖以外の原因が考えられるため 医療機関への受診が推奨されます。
注1)血糖値が常に高い方では、急激に血糖値が下がることでも低血糖症状を来すことがあります。また、自己血糖測定器(SMBG)の精度は、血糖値 100mg/dL未満では ±15mg/dL以内であることから 実際の血糖値とは誤差が生じる可能性があります。
Step2.低血糖に対して 速やかに ブドウ糖10g(砂糖 20g)の経口摂取を行います。ブドウ糖の摂取による血糖上昇にともない、速やかに低血糖症状が軽快・消失する場合は、低血糖症であったと診断します。一方で、血糖上昇後も症状が軽快・消失しない場合は 他の原因が考えられるため 医療機関への受診が推奨されます。また、意識障害からグルカゴン点鼻を行う状況でも、意識障害を起こす重症低血糖であること、投与後の血糖上昇に時間を要するため症状改善を早急に判断できないことから、速やかな医療機関への受診が推奨されます。
Step3.ブドウ糖の投与15分後に血糖測定を行い、血糖値が 80mg/dLを超えるまで繰り返します。
Step4.血糖が80mg/dLを超えて低血糖症状が消失した後は、次の食事までの間隔が空く場合には 再び低血糖を来さないように 80-160kcalの補食をとります。私が勤務していた 滋賀医科大学 糖尿病内分泌内科では カロリーメイト(1本当たり100kcal)を 使用していました。
図2.低血糖時の行動
低血糖の原因を明らかにして再発予防に取り込むことが大切です
低血糖の原因が明らかな場合には、その原因が取り除ける状況であれば自宅での経過観察で問題ありません。例えば、糖尿病治療薬に伴う低血糖の場合が該当します。グリニド薬や超速効型インスリン製剤により低血糖では、作用時間の3-4時間を超えるとインスリン作用が消失するため低血糖リスクも軽減します。一方で、SU薬や持効型インスリン製剤による低血糖では、低血糖が遷延するリスクが高いため、入院による観察が必要となる場合があります。
低血糖の原因が不明な場合には、低血糖が遷延するリスクが高いことに加えて、低血糖の再発予防の手段が分からないことから医療機関で入院による精密検査が必要となります。