- 2023年11月20日
- 2023年12月17日
運動療法①:どんな運動でも血糖は下がる?
血中グルコースの “骨格筋での取り込み低下” が高血糖の原因となる
食事から摂取されたグルコースは、小腸から吸収されて肝臓で一部が取り込まれた後、末梢のインスリン標的臓器(骨格筋や脂肪組織)で主に取り込まれます(図1A)。末梢臓器でのグルコース取り込みを健康成人と2型糖尿病患者さんで比較すると、2型糖尿病患者さんでは骨格筋でのグルコース取り込みが低下していることが分かります(図2B)。末梢臓器でのインスリン抵抗性の増大により、特に骨格筋からのグルコール取り込みが著明に低下した結果、高血糖を来すと考えられます。
図1.A)食後の糖(グルコース)代謝 B)健康成人と2型糖尿病患者さんの末梢臓器でのグルコール取り込み量の違い
運動は “骨格筋の糖取り込み” を増加させる
有酸素運動(酸素を利用して筋肉を動かす)は、運動早期は骨格筋内に貯蔵されている中性脂肪やグリコーゲンを主に利用し、時間経過とともに血中の遊離脂肪酸やグルコースを取り込んでエネルギーとして利用します(図2A)。運動強度が高まるほど、すぐに利用できる糖質(グリコーゲンやグルコース)へとエネルギー源がシフトし、骨格筋への血中グルコースの取り込み量が増加します(図2B)。
図2.A)運動時間の経過に伴うエネルギー源の推移 B)運動強度に伴うエネルギー源の変化
【運動による骨格筋の糖取り込みのメカニズム】
運動による筋収縮の刺激により、GLUT4(グルコースを取り込むトランスポーター)が骨格筋の細胞内から細胞表面へと誘導され、血中のグルコースを大量に取り込むための入り口が準備されます(図3A)。運動早期には、骨格筋内に貯蔵されているグリコーゲンが分解されて大量のグルコース6-リン酸が産生されることで、解糖系の律速酵素であるヘキソキナーゼが抑制される結果、血中からのグルコース取り込みが抑制されます(運動早期はグリコーゲンをエネルギー源として利用し、血中グルコースはほとんど利用しない)。その後、骨格筋内のグリコーゲンが少なくなり、細胞内のグルコース6-リン酸濃度が低下することでヘキソキナーゼが活性化し、GLUT4を介して血中のグルコースを大量に取り込んでエネルギー源として利用し始めます(運動後期では血中グルコースをエネルギー源として利用する)。運動終了後(安静時)は、次の運動に備えて、GLUT1を介して骨格筋内に血中グルコースを取り込んでグリコーゲンを再貯蔵します(運動後安静の状態でもグリコーゲンが十分に産生されるまでは骨格筋の血中グルコースの取り込みは続く)。
図3.運動による骨格筋の糖取り込みメカニズム
運動強度(種類)により血糖への影響は異なる(有酸素運動は血糖を低下させる)
運動が、骨格筋での血中グルコースの取り込みを増加させることを説明してきたが、実際には運動の種類によって血糖変動は異なります(図4A)。持久運動(有酸素運動)では血糖は低下しますが、瞬発運動や高強度インターバルトレーニング、レジスタンス運動では血糖が低下せず、上昇する可能性もあります(図4A・B)。運動強度を上げると骨格筋での糖取り込みは増えるはずなのに、なぜ血糖値が上がるのでしょうか。高強度の運動(瞬発運動や高強度インターバルトレーニング、レジスタンス運動)では、インスリン拮抗ホルモンが活性化して肝臓からの糖放出が促進され、骨格筋での糖取り込みを上回ることで高血糖を来します(図4C)。特に食後高血糖を抑制するためには、過度にインスリン拮抗ホルモンを活性化しない有酸素運動が推奨されます。
図4.A)運動の種類と血糖トレンド B・C)有酸素運動とレジスタンス運動での食後血糖変動およびメカニズム
有酸素運動は食後(特に30分以内)に実施すると効果的
有酸素運動が血糖上昇を抑制するのに有効であることを説明しましたが、運動を行うタイミングはいつがよいのでしょうか。運動のタイミングを変えることで食後血糖変動を評価した多数の臨床研究をメタ解析した研究結果が2023年に報告されました(図5A)。食後に運動することで食後血糖が有意に抑制され、特に食後30分以内に運動を開始することが効果的です(図5A・B)。食後はゆっくりと休憩したいところですが、食後すぐに無理をしない軽い有酸素運動を始める習慣を身につけていただければと思います。
図5.A)運動のタイミングによる食後血糖上昇の抑制効果(メタ解析) B)CGMを用いた運動タイミングによる血糖変動