- 2023年9月10日
- 2023年12月17日
食事療法①:1食あたりの糖質量を減らす
1.糖質(炭水化物)が 食後の血糖上昇に影響する
私たちが日常摂取する食事は、3大栄養素(①炭水化物=糖質、②タンパク質、③脂質)から構成されています(5大栄養素では、④ビタミン、⑤ミネラルが加わります)。3大栄養素の中で、糖質が食後の血糖上昇に関与しています。
図1A は、各栄養素がブドウ糖に変化する速度・量を表しています。糖質は、30~60分をピークに最終的にほぼ100%ブドウ糖に変化します。タンパク質は2~4時間をピークに50%、脂質は8-10時間をピークに10%がブドウ糖に変化します。1型糖尿病・2型糖尿病患者さんの食後血糖値が最大となる時間帯が、食後70分程度(図1B)であることからも、糖質が食後高血糖に与える影響は大きい事が理解いただけるかと思います。
図1.A)3大きい栄養素がブドウ糖に変化する速度・量 B)糖尿病患者さんの食後血糖値のピーク時間
2.糖質量を減らすと食後血糖・インスリン必要量が低下する
3大栄養素の中で、糖質が食後血糖に大きく影響する可能性を説明しましたが、実際に炭水化物量を減らすことで食後血糖は改善するのでしょうか。図2A は、1型糖尿病患者さんに人工膵臓(血糖値に応じてインスリンを投与)を用いて、糖質の摂取量を変更した際の血糖値とインスリン投与量の推移を検討した報告です。糖質の摂取量に比例して、食後血糖値およびインスリン必要量が増加しています。図2Bは、未治療の2型糖尿病患者さんに、同じカロリーの食事を2種類(標準食、低炭水化物食)食べてもらい、1日の血糖値および血中インスリン濃度の変化を観察した研究です。こちらの研究でも、糖質を減らした食事は、タンパク質や脂質(副食=おかず)が増えたとしても、食後の血糖上昇が抑えられています。インスリン作用不足が背景にある糖尿病患者さんにとって、必要インスリン量も抑えることができるため、膵β細胞への負担も少ないといえます。
図2.糖質摂取量と食後血糖・インスリン必要量との関係(A:Ⅰ型糖尿病患者さん、B:2型糖尿病患者さん)
3.糖質量を減らすには、主食(白米・麺類・パン)を減らす
図3A は、それぞれの食事中に含まれる炭水化物量(糖質)を計算した図です。食事から摂取する糖質の多くは、主食(パン、麺類、白米)であることが分かります。図3B に、主な主食に含まれる炭水化物の割合を示します。白米と比べて、麺類は糖質の割合が高く、またイモ類・かぼちゃも糖質を比較的多く含んでいます。「ラーメン&チャーハンセット」や「ラーメン&餃子セット/白米」は、麺類と白米のダブル摂取から過剰な糖質量となります。たいへん魅力的な組み合わせですが、食後の血糖上昇を考えると単品で頼みたいところです。
図3.A)食事中に含まれる炭水化物量 B)主な主食に含まれる炭水化物の割合
4.過度の糖質制限をしても安全なのか
糖質制限の程度に関しての一般的な話をさせてもらいます(年齢や性別、肥満度、背景の疾患、実施する期間、糖質以外の栄養素の割合など個々で異なるため、糖質制限に関しては 主治医にご相談ください)。
摂取する総カロリーのうち40%未満に糖質制限を行うと、死亡率が増加することが多くの論文で報告されています。糖質制限で減ったカロリーを補うために摂取したタンパク質や脂質の種類が影響している可能性があります。植物性タンパク・脂質で補った場合と比べて、動物性で補った場合には、死亡率が増加しています。糖質量 40~60%の場合、タンパク・脂質の種類(動物性 or 植物性)の全死亡への影響が少ないことから、過度の糖質制限は避ける方が安全であるといえます(図4)。
また、①インスリン分泌が枯渇した糖尿病患者さん(Diabet Med. 2023; e15178. doi: 10.1111/dme.15178.)、②SGLT2阻害薬で治療中の糖尿病患者さん(Diabetes Obes Metab.2017; 19: 739-43.)では、低糖質ダイエット(炭水化物摂取量:130g/日未満、総カロリーの40%未満)により血中ケトン体濃度が増加する可能性があり、状況に応じて低糖質ダイエットを避ける必要があります。
図4.”総カロリーに占める炭水化物の摂取割合” と “全死亡” との関係