- 2023年9月24日
- 2023年12月17日
食事療法④-1:1食の食べ方(胃蠕動を考える)
食物の消化メカニズム
食物は、”咀嚼” により細かく砕かれるとともに、唾液中に含まれる唾液アミラーゼ(消化酵素)により一部の多糖類(デンプン)は 少糖類(デキストリンや麦芽糖など)に分解されます。口腔内の麦芽糖の濃度が高まることで、食物の甘み=おいしさを感じることができます。口腔内に食物がとどまる時間が短いため、唾液アミラーゼで分解されるデンプンは全体の5%程度です。
口腔内の食物は、 “嚥下” により 食道 ➔ 胃内へと流れ込みます。胃内では、胃酸により殺菌および吸収しやすい形まで変化した後、蠕動により食物が十二指腸へと送り出されます。胃酸により唾液アミラーゼは失活するため、胃内では デンプンの分解は起きません。
十二指腸では、膵アミラーゼにより、残りのデンプンが 少糖類 まで分解されます。小腸では、小腸粘膜上皮細胞から分泌される α-グルコシダーゼ(二糖類を単糖類に分解する消化酵素の総称)により 単糖類まで分解されて小腸上皮から吸収されます(図1A)。
図2B)は、胃蠕動の速さ(食物の胃内の通過時間)と 食後血糖値との関連性を検討した研究です。胃蠕動の違いを、モルヒネ(胃蠕動の遅延)と エリスロマイシン(胃蠕動の促進)を用いて作り出しています。モルヒネ群では食後の血糖上昇が抑えられ(インリン必要量が低下)、一方でエリスロマイシン群では食後の血糖上昇(インスリン必要量が増加)を認めます。つまり、胃蠕動が遅延する状況は、食後の血糖上昇を抑制する利点があると考えられます。
目の前に準備された食事の食べ方を工夫することで、胃蠕動を抑え、食後の血糖上昇を抑制することができるのでしょうか。答えは、”YES” です。次に、その食べ方について 解説したいと思います。
図1.A)消化のメカニズム B)胃蠕動と食後血糖・インスリン値の関係
食べ方その1.”食べる順番”
図2A. は、主食(ライス)or 副食(魚/肉)のどちらから 食べ始めるかで食後高血糖に与える影響を検討した研究です。副食(魚/肉)から食べ始めた場合、胃内の固形物排出時間(食物の胃内通過時間)は遅延しており、食後血糖値や食後インスリン値は抑制されています。炭水化物と比較し、タンパク質は胃蠕動排出が遅延することが多くの研究で明らかとなっています。
図2Bは、ライスの摂取タイミングと食後血糖の上昇を観察した研究です。ライスを最後に食べることで血糖上昇が最も抑制されています。副食(タンパク質を含む主菜)から食べることで、①胃蠕動の遅延から糖質吸収を緩やかするとともに、②食事の時間経過から生じる満腹感からライスの摂取量を減らす効果が期待できます。
図2.A)主食・副食の食べ順 と 胃蠕動・食後血糖/インスリン濃度との関係 B)ライスの食べ順 と 食後血糖/インスリン濃度との関係
食べ方その2.”食事中の飲水量”
食事を食べる際に、水分を多くとられる方とそうでない方がいると思います。食事中に水分を摂取することが、食後の血糖上昇に与える影響について検討した研究があります(図3)。A食(水分300mlを飲水しながら食事)と B食(飲水せずに食事)で 比較を行いました。水分を取りながら食事を摂ることで、食後血糖や必要インスリン量が増加しています。飲水により食物の胃内通過時間が短縮された影響が考えられます。
図3.食事中の飲水の有無 と 食後血糖/インスリンとの関係
今回は、胃蠕動を促進させない食べ方について解説をしてきました。実際に食事する場合には、① 副食(オカズ)だけを最初に食べてライスは最後に食べる、②食事中に水分を摂らない食べ方は、しんどいと思います。副食と一緒にライスを食べないとおいしくない、水分を取らないと口がパサパサして飲むこみづらい と考える事は、当たり前だと思います。「こういう食べ方もあるんだなー」という程度に、頭の片隅に留めておいていただければと思います。