内分泌疾患とは

内分泌疾患のイメージ画像

内分泌ホルモンとは、視床下部/下垂体・甲状腺・副甲状腺・膵臓・副腎・性腺などのさまざまな内分泌臓器で作られ、血流に乗って標的となる臓器に作用して生理活性を発揮します。内分泌ホルモンは多すぎても少なすぎても、心身にさまざまな障害を引き起こします。内分泌疾患は、潜行性に非特異的な症状を示すことが多く、疑って検査をしないと不定愁訴として長期間病気に気づかれずに過ごされることもあります。以下に代表的な内分泌疾患について解説します。

内分泌ホルモンを作る内分泌臓器とそのホルモン種類の表

下垂体疾患

先端巨大症

過剰に分泌された成長ホルモン(GH)によって、骨や軟部組織の肥大化から特有の顔貌変化(額・鼻・唇・下あごが大きくなる、咬み合わせが悪くなる)、手足の変化(指輪・靴のサイズが大きくなる、手根管症候群)、皮脂腺や汗腺の肥大・機能亢進から汗かきになる、舌や咽頭部の肥厚から睡眠時無呼吸症候群などを来します。また、糖尿病や高血圧、女性の場合は月経異常を伴うことがあります。先端巨大症の多くは、脳下垂体にGH産生腺腫ができることが原因であり、下垂体腺腫が大きい場合には腫瘤による圧迫から頭痛や視野障害を来すことがあります。合併症として、悪性腫瘍(特に大腸癌)や動脈硬化性疾患の発症リスクが高く、合わせて評価していく必要があります。
診断としては成長ホルモンの過剰分泌の証明(ブドウ糖負荷試験)、下垂体腺腫の検索(下垂体MRI画像検査)などを行う必要があり、連携医療機関と協力して診断を行っていきます。治療に関しては、手術療法が第一選択となります。手術後に残存腫瘍がある、手術不能な症例では薬物療法(ソマトスタチン、GH受容体拮抗薬)や放射線治療の併用を検討します。

プロラクチノーマ(プロラクチン産生下垂体腺腫)

過剰に分泌されたプロラクチン(PRL)によって、性欲低下や月経異常、乳汁分泌を来します。高プロラクチン血症の原因として、プロラクチノーマ以外に、視床下部・下垂体茎病変、原発性甲状腺機能低下症、薬剤性(抗潰瘍薬・制嘔薬・向精神薬などの一部の薬剤、エストロゲン製剤)など多岐にわたります。原因となる薬剤の休薬や甲状腺ホルモンの正常化によりPRL基礎値が正常範囲に戻るのか、視床下部や下垂体に腫瘤などの病変がないか画像検査を行う必要があります。
治療としては、原因の病態によって異なります。プロラクチノーマの場合は、薬物療法(ドパミン作動薬)により血中PRL値の正常化や腫瘍縮小効果がある程度は期待できることから薬物療法が第一選択となります。

クッシング病

下垂体から過剰に分泌された副腎皮質刺激ホルモン(ACTH)によって副腎から慢性的にコルチゾールが過剰分泌され、疾患特異的な症状(満月様の顔貌、中心性肥満、腹部などの赤色皮膚線条、皮膚の菲薄化、皮下の内出血)と非特異的な症状(高血圧、糖尿病、多毛、にきび、骨粗鬆症、月経異常など)を来します。
診断としてはコルチゾールの過剰分泌の証明(負荷試験や蓄尿検査)、下垂体腫瘤の検索(下垂体MRI画像検査)などを行う必要があります。治療に関しては、手術療法が第一選択となります。手術後に残存腫瘍がある、手術不能な症例では放射線治療や薬物療法(ソマトスタチン、ステロイド合成阻害薬など)の併用を検討します。

下垂体前葉機能低下症

下垂体前葉から分泌されるホルモンが低下した結果、さまざまなホルモン欠乏症状を来します。

各種ホルモンの低下による症状の表

発症の原因としては、原因不明の特発性、下垂体腫瘍、妊娠分娩に続発するもの、視床下部・下垂体術後または放射線照射後、頭蓋咽頭種などが挙げられます。治療としては、下垂体に明らかな腫瘍などの病変がある場合は手術療法などが検討されますが、不足しているホルモンに対してはホルモン補充療法を行います。

中枢性尿崩症

下垂体後葉から抗利尿ホルモン(ADH)の分泌が低下した結果、腎臓での尿濃縮能が低下することで多尿(通常は1日3000mL以上)を来します。多尿に対する代償反応として強い口渇感が生じるため、通常は飲水量の増加から高度の脱水に至ることはありません。しかし、特に視床下部の器質的疾患により口渇中枢が障害を受けた場合には、飲水量の低下から著しい脱水・高Na血症を来して命に危険がおよぶことがあります。
多尿に対する治療としては、ADHの補充療法(デスモプレシンの経口薬・点鼻薬)を行います。ADH補充下での飲水過剰による水中毒を避けるため、デスモプレシンの薬効が切れる時間帯の設定や頻回の体重測定による水分量の確認が必要となります。

甲状腺疾患

甲状腺疾患ページ

副甲状腺疾患

原発性副甲状腺機能亢進症

副甲状腺から過剰に分泌された副甲状腺ホルモン(PTH)によって、骨から血中へのカルシウム(Ca)の動員(骨密度の低下)、尿からのCa排泄能の低下(尿管結石や腎石灰化症)、活性型ビタミンD合成の亢進による腸管からのCa再吸収増加により高Ca血症を来します。著しい高Ca血症を来すと神経・筋障害による易疲労感や脱力、腎障害による多尿・口喝・脱水、胃・腸管障害による胃潰瘍、吐き気・嘔吐、便秘などを来します。
副甲状腺は通常 4腺あり、どの副甲状腺からPTHが過剰産生されているか(局在性)を評価するため、副甲状腺エコーやMIBIシンチグラフィーといった画像検査を行います。局在性が明らかな症例については、手術療法により著しい骨量の増加、尿管結石の防止、腎障害の予防が期待できるため、手術療法が第一治療選択として推奨されています。

副腎疾患

原発性アルドステロン症

副腎皮質から過剰に分泌されたアルドステロンによって、難治性高血圧症や低カリウム血症を来します。アルドステロンは心血管系への直接作用から、生活習慣の乱れや加齢により発症する本態性高血圧症と比べて心血管系合併症のリスクが高いことが知られています。
診断としてはアルドステロンの過剰分泌の証明(負荷試験)、ホルモン産生の局在評価(CT検査、副腎静脈サンプリング検査)を行う必要があります。副腎静脈サンプリング検査により片側病変と診断された場合は手術療法、手術を希望されないまたは両側病変の場合はアルドステロンの作用を抑制する抗アルドステロン拮抗薬を使用します。

クッシング症候群

副腎皮質に発生する腫瘍から慢性的にコルチゾールが過剰分泌され、疾患特異的な症状(満月様の顔貌、中心性肥満、腹部などの赤色皮膚線条、皮膚の菲薄化、皮下の内出血)と非特異的な症状(高血圧、糖尿病、多毛、にきび、骨粗鬆症、月経異常など)を来します。
診断としてはコルチゾールの過剰分泌の証明(薬剤による各種負荷試験)、副腎皮質腫瘤の検索(CT画像検査)などを行う必要があります。治療に関しては、手術療法が第一選択となります。手術不能な症例では、症状を軽減するための薬物療法(ステロイド合成阻害薬)を検討します。

褐色細胞腫/パラガングリオーマ

副腎髄質、傍神経細胞に発生する腫瘍から過剰に分泌されたカテコールアミン(アドレナリン、ノルアドレナリン)により交感神経が活性化されて、高血圧症や高血糖、頭痛、発汗、顔面蒼白、体重減少など様々な症状を来します。特に力むような動作(運動、くしゃみ、排便、ストレスなど)、チラミン高含有食品(塾生したナチュラルチーズ、赤ワインなど)では高血圧発作が誘発されることがあり注意が必要です。
診断としてはカテコールアミンの過剰分泌の証明(血液検査や蓄尿検査)、産生腫瘍の局在検索(CT/MRI画像検査、MIBGシンチグラフィーなど)を行う必要があります。治療に関しては、手術療法が第一選択となります。手術が困難な場合には、抗癌剤治療が選択されます。

副腎皮質機能低下症

副腎皮質から分泌されるコルチゾールが不足した結果、全身倦怠感、脱力感、吐き気、体重減少などを来します。特に、感染や外傷、手術などのストレス時には、ストレスに対処できるように生体から大量のコルチゾールを分泌する必要があり、著しくコルチゾールが不足する状況では、発熱、嘔吐・下痢、低血圧、低血糖、意識障害などの重篤な症状を伴う副腎クリーゼを発症することがあります。副腎皮質機能低下症の原因としては、副腎が原因の原発性、視床下部・下垂体の病変が原因の続発性、薬剤による医原性などがあります。
治療としては、副腎皮質ホルモン(ヒドロコルチゾン)の補充療法を行います。著しいストレスの状況では、副腎クリーゼの発症予防のために普段よりも多くのヒドロコルチゾンを投与するとともにストレスの原因となる病態の治療も併せて行う必要があります。