高血圧症
血圧とは
血圧は、「動脈血管壁の内側にかかる血液の圧力」であり、心臓から拍出される血液量(心拍出量)と末梢血管での血液の流れにくさ(末梢血管抵抗)によって決定されます。心拍出量や末梢血管抵抗は、神経性因子(自律神経系)と体液性因子(ホルモン)により調整されて適正な血圧に維持されています。
- 心拍出量
- 交感神経の興奮により心筋収縮力・心拍数は増加し、食塩過剰や腎機能障害(食塩排泄障害)により循環血液量は増大します。その結果、心拍出量が増えることで血圧上昇を引き起こします。
- 末梢血管抵抗
- 交感神経の興奮、ホルモン(レニン・アルドステロン)の過剰分泌、喫煙により末梢血管は収縮します。その結果、末梢血管抵抗が増えることで血圧上昇を引き起こします。
高血圧が長期間にわたって続くことで心臓や血管が次第に厚く、硬くなり構造上の変化が生じてきます。これが高血圧による動脈硬化で、脳出血や大動脈解離、冠動脈疾患、脳梗塞、腎硬化症などの合併症を引き起こします。
高血圧の診断
高血圧治療ガイドライン 2019
高血圧の分類・原因
本態性高血圧
日本人の高血圧全体の85-90%は、高血圧の原因がはっきりしない本態性高血圧です。遺伝や体質、生活習慣(塩分の摂りすぎ、肥満、過度の飲酒、運動不足、ストレス、喫煙)など様々な要因により、緩やかに高血圧を発症します。
二次性高血圧
高血圧全体の10-15%は、特定の原因で高血圧を来す二次性高血圧です。若年者の高血圧、急な血圧の上昇、高度の高血圧、一般的な降圧剤治療でなかなか血圧が下がらない場合に二次性高血圧を疑います。二次性高血圧は、早期に原因を特定し、原疾患に対する治療を行うことで高血圧が改善する可能性があります。
二次性高血圧を来す代表的な疾患
治療
血圧管理の目標値
生活習慣の改善
- 食塩制限
- 6g/日未満
- 食事パターン
-
- 野菜・果物の積極的摂取
※カリウム制限が必要な腎障害がある方は、野菜・果物の積極的な摂取は推奨されません
※糖尿病、高コレステロール血症、高尿酸血症の方は、果物は積極的摂取は推奨されません - 飽和脂肪酸(肉の脂身、動物脂、加工肉など)、コレステロールの摂取を控える
- 多価不飽和脂肪酸や低脂肪乳製品の積極的摂取
- 野菜・果物の積極的摂取
- 適正体重の維持
- BMI 25未満の維持
- 運動療法
- 軽強度の有酸素運動を毎日30分、または週180分以上行う
- 節酒
- エタノール:男性 20-30ml/日以下、女性 10-20ml/日以下に制限
- 禁煙・その他
- 防寒や情動ストレスの管理など
薬物療法
生活習慣を見直しても血圧の改善が乏しい場合に薬物療法を検討します。降圧薬には、血管拡張作用をもつCa拮抗薬、ホルモン(レニン・アルドステロン)の過剰作用を抑制するACE阻害薬・ARB、尿への食塩排泄を促す利尿薬、交感神経刺激が心筋に伝わるのを抑制するβ遮断薬などがあります。高血圧の原因となっている主病態、併存する高血圧合併症を考慮して、それぞれの患者さんごとに適した薬物療法を選択します。
脂質異常症
脂質の代謝
肝臓で中性脂肪とコレステロールから「VLDL」が産生され、血液中でエネルギーが必要な筋肉や脂肪組織に中性脂肪を渡しながら「LDL」に変化していきます。「LDL」は LDL受容体を介して末梢組織にコレステロールを供給し、細胞膜やステロイドホルモン、胆汁酸の材料として利用されます。一方で、末梢組織で余ったコレステロールは、「HDL」として回収され、肝臓にHDL受容体を介して取り込まれます。
体に必要なコレステロールは全て体内で作ることができますが、食事からも摂取されます。
LDLコレステロールは「悪玉」、HDLコレステロールは「善玉」と呼ばれていますが、コレステロールそのものは、人間の体になくてはならない役割を担っています。コレステロールの供給源の「LDL」が多い、または回収する「HDL」が少ないことで、余ったコレステロールが血管内に付着して動脈硬化(心筋梗塞、脳梗塞など)を形成・進展させます。
脂質異常症の診断
動脈硬化性疾患予防ガイドライン 2022年版
治療
動脈硬化性疾患の既往の有無、糖尿病や慢性腎臓病などの併存疾患の有無、年齢や性別など患者さんの状態によりリスクを層別化して治療目標値を決定します。
動脈硬化のリスクがあると判断した場合には、頸動脈超音波検査や血圧脈波などの検査を行い、現在の動脈硬化の状況を可視化/数値化して評価を行います。
動脈硬化に不安のある患者さんもお気軽に診察時に検査について相談ください。
LDLコレステロールの管理目標値
動脈硬化性疾患予防ガイドライン 2022年版
久山町研究によるスコアから予想される10年後の動脈硬化性疾患発症リスク
動脈硬化性疾患予防ガイドライン 2022年版
生活習慣の改善
- 禁煙
- 受動喫煙の回避も含む
- 飲酒
- アルコールを25g/日以下に抑える
1日ビール600ml以内、日本酒180ml以内、焼酎90ml以内、ウイスキー・ブランデー60ml以内、ワイン200ml以内の適量を守ることが大切です - 体重あるいはウェスト周囲長の減少
(BMI≧25の場合) - 3-6カ月間で 体重・ウェスト周囲長の3%以上の減少が推奨されています
- 食事療法
-
- 飽和脂肪酸(肉の脂身、動物脂、加工肉など)の摂りすぎに注意し、魚類や大豆製品の摂取回数を増やす
- コレステロールの過剰摂取を200mg/日未満に制限する(高LDLコレステロール血症がある場合)
- 食物繊維(野菜や海藻類など)の摂取量を増やす
- 果糖(砂糖の構成成分)を含む加工食品を避ける
- 食塩の摂取を6g/日未満に制限する
- 運動療法
- 1日合計30分以上を週3回以上、または週 150分以上の中等度以上の有酸素運動(速歩、ジョギング、テニス、水泳など)を実施することが推奨される
薬物療法
生活習慣を見直しても脂質異常症の改善が乏しい場合に薬物療法を検討します。脂質異常症の薬剤は、「コレステロールを下げる薬剤」と「中性脂肪を下げる薬剤」に分類できます。早期から治療介入することで動脈硬化性疾患の発症の予防効果は高まります。
LDL-C蓄積と治療介入の予防効果(イメージ図)
高尿酸血症
尿酸の代謝
尿酸は「プリン体」が肝臓で分解されて生じる老廃物です。プリン体には、新陳代謝(古い細胞の核酸が分解されて放出)やエネルギー代謝(急激に大量のATPが分解されて放出)による「内因性プリン体」と食べ物由来の「外因性プリン体」があります。「内因性プリン体」が体内に供給される「プリン体」の70-80%を占めています。尿酸は一時的に体内にため込まれた後、尿や便として体外に排泄されます。
高尿酸血症の診断
血清尿酸値が 7.0mg/dLを超えると高尿酸血症と診断されます。
高尿酸血症の合併症
高尿酸値の状態が長期化すると、血液に溶けきれずに尿酸が結晶化して、体のいたる所に蓄積します。関節内に尿酸塩として蓄積した場合は「痛風・痛風発作」、尿路や膀胱に蓄積した場合は「尿路結石」を引き起こします。また、痛風を繰り返して尿酸塩が腎臓に蓄積されることで腎障害(痛風腎)を引き起こします。
一方で、尿酸の結晶化による臓器障害がない状況であっても、高尿酸血症は慢性腎臓病、動脈硬化性疾患(心筋梗塞、脳梗塞など)のリスクを上昇させます。
治療
治療の開始前に痛風を起こしてしまった場合
まずは炎症を抑えて、痛みを和らげるために抗炎症薬(非ステロイド性抗炎症薬)を用います。
高齢であったり腎機能低下を認める場合、抗炎症薬が使用できない、もしくは十分な効果が得られない場合には、副腎皮質ステロイドを用います。
痛風発作の再発を予防するため、痛風による症状がおさまった後に尿酸値を低下させる薬剤を開始します。薬剤開始後、急激に尿酸値が低下することでも痛風を発症する可能性があるため、少量から薬剤を開始して徐々に増量していきます。
痛風発作がなく高尿酸血症を認める場合
- 治療目標
- 尿酸値6mg/dl以下を目指します
高尿酸血症・痛風の治療ガイドライン 第3版
生活習慣の改善
- 食事療法
-
- プリン体の摂りすぎに注意する:1日 400mg程度が推奨
※食品・飲料中のプリン体含有量(公益財団法人 痛風・尿酸財団) - 果糖(砂糖の構成成分)を摂りすぎない
※果糖は、肝臓で代謝される過程でATP消費を伴ってプリン体の合成促進を引き起こします - 野菜や海藻類などアルカリ食品を摂る
※アルカリ食品は尿をアルカリ化し、尿路結石を溶けやすくします
- プリン体の摂りすぎに注意する:1日 400mg程度が推奨
- 飲酒制限
- 適度な飲酒量を守る
1日ビール 350-500ml以内、日本酒 180ml以内、焼酎 90ml以内、ウイスキー・ブランデー 60ml以内、ワイン 150ml以内の適量を守ることが大切です。
※アルコールによる高尿酸血症:アルコールは代謝される過程でATPが消費・分解されて体内プリン体が増加します。またアルコールの中でビールはプリン体の含量が多く、最も痛風リスクを高めます。 - 運動療法
- ウォーキングや水泳などの有酸素運動を行う
有酸素運動は肥満解消につながり、インスリン抵抗性の改善から尿酸値の改善が期待されます。一方で、テニスや短距離走など短時間で激しい運動(無酸素運動)は、かえって尿酸値を高めるため要注意です。
※無酸素運動による高尿酸血症:急激で大量のATPが分解されて体内プリン体が増加します。また運動で生じた乳酸は腎臓からの尿酸排泄量を低下させ、結果として高尿酸血症を来します。 - 水分摂取
- 尿酸を尿から排泄するために、1日2Lの尿量を確保するように水分を取る
※甘味飲料や果物ジュースは果糖を多く含むため摂りすぎに注意